かやのみ日記帳

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映画 レナードの朝 の感想。純朴な医師が患者に寄り添って、悩みながらも医師としての務めを果たす物語。

 

実話がもとになってるからこそ

レナードの朝 (字幕版)
 

 てっきりタイトルをずっと「レナードの朝に」だと思っていた。正しくは「レナードの朝」。英語のタイトルはAWAKENINGSだから目覚めくらいの意味だろうか。日本語のタイトルはちょっと情緒的な味付けかもしれない。

 

気になっていたのはロビン・ウィリアムズが出演するからだ。大好きな映画、グッドウィルハンティングのカウンセラー役が見事だったので、違う作品も見てみたくなった。このレナードの朝でも同様に臨床医師役を見事に演じ切っている。

 

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グッドウィルハンティングではロビン・ウィリアムズが優しげな表情と悲しみを帯びた目でずっと語り続けるシーンがとても好きだった。ただ語り続けるだけのシーンなのに、表情、感情がとても豊かで…。とてもじゃないが他の俳優にはまねできないだろうと思う。

 

そんな名演を期待してレナードの朝を見たのだけれど、大当たり。素晴らしい名演だった。しかも全然優しさの方向が違う人物に仕上がっている。グッドウィルハンティングでは大胆であり、そして聡明だ。心の傷は負っているけれど、それを隠すのがとてもうまいが最後には自分に再び賭けることを決意する。

 

レナードの朝の医師、マルコム・セイヤーは人付き合いが苦手で、何事にも控えめ。声を荒げることなんかまったくない。そして植物が好きで家の中は本が散乱し、一人でいることを好む典型的な内向性の持ち主だ。

 

レナードの朝、というタイトルだからレナードが主人公か?というと実はそうではない。間違いなく医師が主人公である。「レナードの朝」それはレナードが迎えられた、ずっと待ち望んでいた”朝”だった。その”朝”によってセイヤーも変わる。ずっと看護していた人々の気持ちも変わる。そういう意味での邦題なんだと思う。

 

あくまで「レナードの朝」は主人公セイヤーにとっての意味が大きいんじゃないだろうか。もちろん何十年も眠っていた人物が目覚めるというのはとてもドラマチックで、動きもあるから目を取られがちだけど内面の変化はきっと周囲のほうが大きいんだと思う。

 

心を打つ、素朴な人柄が紡ぎだす言葉たち

主人公・セイヤーはまったく強くない。けれども人を愛している。とても健気な人だ。看護師がその優しさに心を寄せていることがわかっても、目の前の患者の為に夜通し働く。他の医師にバカにされても、信じられなくても、きっと意志を持っていることを信じて語り掛けていく。

 

この映画の中では一度奇跡的に目覚めた患者たちが再び神経症に戻り”眠ってしまう”までを描いている。それでも映画の最後には現実で今でも医師は戦い続けていると書かれる…。医師たちが大変な労力を費やして頑張ったのに、いったい何の意味があったのだろうか。

 

そんな無力感を感じてセイヤーはかつて元気で話していた頃、映像に収めていたレナードの姿を見ながらうっすらと微笑んでいる。こんなに元気だったのに。僕のしたことは間違っていたんじゃないかと。周囲の人だってぬか喜びだった。新薬は効き目が強かったり、耐性ができてしまい効かなくなった。

 

そんな弱音を看護師が慰めるんだけど、その言葉がとてもよかった。「命だって与えられて奪われるものだから」と。医師は失われたり、奪われたものを現世へと引き戻すために多大な労力を費やす。けれどそれは延命にすぎず、ほんの少しの時間しか与えられないことだって多いはずだ。そのことに意味はあるのか。

 

けれど意味はあるとこの映画はきっと伝えている。命とはすばらしいものなのだ。例え与えられた後、奪われるとしても、それでも命は素晴らしいのだ。同じように医師がきちんと患者を回復させることができたのなら。そのあとに残念な結果になったとしても、それでも手を尽くしてくれたことには感謝しかないだろう。たったそれだけでも人の命、人の尊厳を救おうとしてくれること自体に意義があるのだ。

 

終わり際にセイヤーはいつものように仕事をしようとするが、ふと今はもう眠ってしまったレナードの写真にふと目を止める。目覚めていた頃、レナードはセイヤーに看護師が想いを寄せてくれているということを伝える。大切にしなよと。レナードにも目覚めていた一瞬だったが、恋した人がいた。けれど、もう伝えられない。

 

それを思い出したセイヤーは白衣を放り投げて想いを寄せてくれている人に声をかけるのだ。それは今までの自分とは違った自分の新しい可能性の目覚めなのかもしれない。

 

おわりに

たまにテレビでは医療ドキュメンタリーが放送される。様々な医師が命に向かい合う。その真剣さ、使命感は本当にものすごいものだと思う。今まで自分が何気なく過ごしている日常はきっと真剣に医療に従事している人たちが支えてくれているのかもしれない。

 

一般人の自分としては困った時ばかり医師にすがってばかりだ。医師も何人も何人も救えたり、救えなかったりを繰り返すとても大変な仕事だ。それでも一つの命に真剣に向かう姿には頭が下がる。その気持ちをふと思い出した。普段は怖くて思い出したくない死への恐怖。そういったものに真剣に一つ一つ向かい合う人々。医師に敬意を払いたくなる、そんな映画だった。