かやのみ日記帳

日々感じたことをつれづれと書いています。

ブルーピリオドが良すぎる

 

ブルーピリオドはTwitterで流れてきて、最近読んだけど最高によかった。

nlab.itmedia.co.jp

ねとらぼの対談記事は本当に面白かった。

 

美術のトラウマ

美術の先生といえば、確かにこんな感じだよなあと懐かしくなる。
授業にもテストにも適当でいいと言う。
でも課題には自由に、でも真剣に、楽しく向き合ってほしいという。
課題の内容もなかなか本質的な内容で。そして自分のトラウマになっている。
自分のトラウマについては過去に記事に書いたことがある。


美術で心の中を描くというテーマがあったのだが、自分は何も思い浮かばなかった。
表現したいことが多すぎるが、それを表す方法を知らなかった。


サッカーが好きな人は、サッカーの意匠を散りばめていた。
そんなに心の中は陳腐じゃない、なんて決めつけていた。
今思うと大変失礼で傲慢だった。
プライドが高くてへそ曲がりで、だからこそ描くのが下手だったのだろう。


そういう気持ちが現れて絵を描いてしまった。絵ですらなかった。
混乱した気持ちをそのままぶちまけた。
自分にも理解できないから、周囲にはわからん絵としてウケた。
そこそこいい気分で、誰も自分の心を理解してくれないことに喜んでいた。
でも美術の先生は違っていた。


そして授業では言わなかった評価をこっそりと耳にしてしまった。
一連の出来事がトラウマだ。聞かなきゃよかったけど、聞いてよかった。
自分の無駄なプライドと、周囲の無意味なちやほやと、本当を知っている人の評価。

 

実は内向的に見える主人公

まあ自分語りをしたのも理由があって、物語が始まるきっかけと対照的だったから。
主人公は美術の課題を通して初めて自分の心の内を表現できて、泣く。
素直ないい絵だったと。後々までここで描いた絵は原点として語られる。
いいなあと思った。一方でここから主人公の苦しみの物語が始まる。


主人公はだいたいなんでも器用にうまくやる、冷めた人間として描かれている。
周囲とうまく馴染むため、金髪、喫煙。勉強もバッチリなのは両親のため。
その一方で自分の内心をうまく周囲には伝えられない。

 

周囲のためを思うから。
言ってしまうと自分が作ってきた周囲に馴染むいいヤツという評価を失う。
誰かの面倒な奴になりたくない、そんな主人公に見える。


ただ主人公の心の内側はとっても饒舌で、たくさんのことを考えている。
かなり外交的なタイプに見えるけど、本質的には内向的なタイプだなーと思う。
うまく外交的とは何か、周囲を観察してなりきれるタイプの擬似外向型。


のちに主人公は美大を受験すると言い、家族からも応援されていることに担任が驚く。
担任は美術の先生になぜこうなったのか理解できない、なぜ美術に傾いたのか聞く。
その時に美術の先生がいう一言が好きだ。とても情熱的な方ですから、と。

 


ブルーピリオドの面白さは主人公の内心の表現の豊かさだなあと思う。
もちろん登場人物の発言も、情景描写も、展開も面白い。
主人公が外に言葉にできない、心の言葉を読者である自分達には開示されるのがいい。


彼が本当は外に表現したい、でもできない、絵でしか話せない言葉を読者は見ている。
良質な解説を添えて、葛藤の中を駆けていく主人公を見れるのが、ずるくっていい。

 

言葉と絵

言葉が正直でいい。ぐさっと来るものが多い。
例えば好きなことは趣味でいい、なんて大人の発想だとバッサリ言われるシーン。

主人公は冷めていて、絵を描くことは好きだけど将来に繋がらないことを悩んでいる。
でもこの美術の先生からの言葉で背中を押された、自分で行きたい道を決められた。

 

一方、ある意味で美術の先生は崖に叩き落としたようなものだなあと思う。
苦しみがあることを知っていて、それでも人に薦められる自信が自分にはない。
好きなことをやりなさいと人に薦められる人は、強い。

 

好きなことを選ぶ苦しみもひっくるめて選んできた人しか言えない。
自分にはちょっと言えない。好きではあるけど、妥協していることを知っているから。
だからこそ、ぐさっとくる人が多いんじゃないだろうか。
自分の心の中で言ってくれることを望んでいる人も多いんじゃないか。本当は、と。

 

 

その後、主人公が内心で言う言葉。
好きなことをやることって、いつでも楽しいって意味じゃないよ。
一人で暗い部屋の中、座り込んで苦しむ姿が描写される。

 

世間の常識、語られる言葉にはいくつか呪いがあるなと思う。
どこで生まれて、中に何が含まれているのかわからない呪い。
誰かの心の内側に住み着いてしまって、気づかれないまま苦しませる言葉。

好きなことをやってるんだから、楽しいはずだ。
好きなことで飯を食っている人間が羨ましい。

 

よく言われるけれど、仕事とか真剣に向き合うことは苦しいことだ。
たまーに苦しくない、楽しいと言って輝いているように見える発言が見えたりする。
成功者の言葉とかそう言う本に書かれていて、みんなそれに憧れる。
それを目指すことが幸せなのだと誘導されがちだ。

でも生存者バイアスと言うことで、そう言う言葉が綺麗だから切り取られているだけ。
苦しみはあちこちに転がっているから、飾るなら綺麗な言葉を。
実際に道を進んでいる人にしか体感できない、得られない苦しみもある。
大体は皆賢者ではないからこそ、経験からしか実感できないものだ。

大事なのは、自分が愚者だと認めることかもしれない。
賢者でありたいと願うよりも、愚者として時間をかけてぶつかっていくしかない。

 

物語の中で美大を目指す道からお絵かき教室の講師になった人のことが語られる。
それに対して「よかった」と言うシーンがある。
ちゃんと選べたことを祝福する。無理して続ける必要はないと。選ぶことが大事だと。
ただ、漫画で描写されるのはとても切ないものだ。
限界まで絞りきられた丸まった絵の具のチューブがポツリと描かれる。
どうしても使いきれない、割り切れないものが残っている。

 

ブルーピリオドがすごいのは言葉で説明をしているところと、描画が美しいこと。
絵を言葉で補足しているところもあれば、言葉より絵で語っているところもある。
両方あるからいい。漫画の表現って言葉と情景描写が合わさっていいなあと思う。
時が一枚一枚止まっていて、その見せたい一瞬がくり抜かれて完成されていて良い。

 

終わりに

読んでいくと、勇気が湧いてくる。主人公は傷つきながらも進んでいく。
主人公の気づきは、自分が描いているから得られるものだ。
本を読んだりアドバイスももらっているが、全ては描いているから。
自分で気づくことが大事だと言うことを嫌でも教えてくれる。

 

絵を描くことだけじゃない。何かを創るときにぶつかる壁を表現されてると思う。


自分の引き出しが少なくてかけないこと。なんとなく似たようなものになりがち。
誰かの作品に惹かれるものがあるけど、それを表現できない。
その上自分にはそれが足りてないことをなんとなくわかってしまうこと。

 

今の自分にも当てはまることで、それを解決していくのがスッキリしていい。
足りないなら、自分で手に入れていくしかない。願っても手に入らない。
学ばなければ、増えない。苦しいけれど、そのあとにある感動だけは自分のものだ。
その達成感まで描画されているから、応援されているような気がしてくる。
これからもブルーピリオドは読みたい。