かやのみ日記帳

日々感じたことをつれづれと書いています。

映画「ちょっと今から仕事やめてくる」感想。小説版よりもスケールが上がり、ラストも大満足!たくさん泣きました。

 

ついに見てきました、映画版「ちょっと今から仕事やめてくる」

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ブログの記事も書いたので公開初日に劇場に行って見てきました。泣いちゃうかな~と覚悟してましたが、めっちゃ号泣でした。3回か4回は涙が自然と出てきて大変でした。涙が止まらなくて…。映画館でも多くの人が涙してたのがわかりました。見て本当によかったな…という気持ちでいっぱいです。

 

事前に小説を熟読していましたが、映画を本当に楽しめました。初見でも十分楽しめますし、小説を読んでおくと2倍、3倍おいしい作りになっているのでご安心ください!トーリーの筋を知ってるから…と言って油断してるとボロボロ泣きます。油断してなくても自然と泣きます。そんな映画でした。

 

※以下から大量の文章による感想、小説版との比較、ネタバレ満載になっております。映画版視聴前の人はご注意ください。(6000文字程度あります…)

 

 

 

小説版との違いは?

話の序盤~中盤はあまり変化はありません。ほとんど小説版と同じような内容で進んでいきます。ただお芝居が凄まじいし、小道具にこだわりが見て取れます。映画の冒頭から視覚的・聴覚的にギョッ!とする仕掛けがたくさんありました。

 

例えば主人公・青山隆の部屋が汚すぎます。すごい。部屋に放置された実家から送られてきたブドウに虫が食っている場面から青山の物語が始まります。部屋の中は荒れていてゴミ袋があちこちに散乱。汚さ満載です。ちなみにストーリーが進行していくと部屋の汚さLvが上がっているのが見て取れます。劇中では一度目覚まし時計を破壊してますし。

 

また、小説おなじみの憂鬱曲「一週間の歌」作詞作曲・青山隆…のはずが、TVで話題の謎のラッパー曲に変更。なんかもうどうしようもない感じの曲にアレンジされていました。その後は一切出てきません。なんだったんだ。

 

また、ヤマモトの行動が原作よりもすごくアグレッシブ。予告編にもあったスーパの台車で二人で坂を下るシーンは良かったですね。青山はヤマモトに「危ないだろ!死んだらどうする!」と詰め寄るんですがヤマモトは笑って「空見てみ…」と言うだけ。そこにモノローグで「生きてて良かったと思う自分がいて驚いた」みたいなことが入る…。演出がとてもいいです。ヤマモトは楽しんでるんでしょうけれども、それでも命の大切さみたいなものを青山に感じさせたんですね。

 

超怖い、異常に気合の入ったブラック企業描写

小説版と映画版の大きな違いはブラック企業描写の迫力でしょう。もうね、上司役の吉田鋼太郎さんがあまりにも怖すぎます。あちこち物を使って迫力ある音を響かせ、腹の底から出てくる恐怖罵倒ボイスで、観てるこっちも冷や汗をかかされます。

 

正直ブラック企業に勤めたことがある人や残酷な上司・先輩にあたったことがある人、先生から厳しい指導をうけたり虐待経験がある人が見たら心拍数がヤバいことになります。トラウマがフラッシュバックしそうになるので見ないほうがいいかもしれません。それぐらい迫力満点の演技でした。

 

上司が怒鳴り散らし、全員に謝れ!声が小さーい!土下座しろ!土下座してずっと謝ってろ!と命令して、青山はずっと土下座しながらくぐもった声で「すいませんでしたァ!申し訳ございませんでしたァ!」を7~8回繰り返すんですけど、職場の人が誰も何も言えず、誰もそちらを見ずにひたすら緊張してる様が見える。うん、ブラック企業怖い。上司が罵声を浴びせるたびに、物に当たる際にいろんな人がビクッ!となったり慌てて資料を見てるふりしたりと…。ああ悲しいリアルさが…。

 

ともかく見てるこっちが心折れそうになります。暴力が日常茶飯事なんだなーというのと、誰も逆らえず、誰もフォローできずただ自分に怒りが降りかかるのをひたすら恐れて「はい」しか言えない異常な空間。うん、書いてて胃が痛くなってきた…。そういった緊張感ある空間の演出が素晴らしかったです。

 

そのシーン見たかった!と思わせる場面があって素晴らしい

映画版で大きく変わった点の一つとして、小説版では青山は実家に対して電話をかけて終わった後で後悔して泣く…という場面があるのだけれど、映画版の場合は実際に実家に帰るのだ。この変更は正直素晴らしい!というのも映像として非常に映えるのだ。なによりも原作を見ていたファンとしてはきちんと両親に会って話す青山を見たかった。それが実現したので内心うわー!と感動していた。映画ならではの映える場面を持ってきていて素晴らしいなと感じた。

 

そして両親も実は一家心中しようかな…と考えていたことが判明してしまう。しかし隆の人生を見守りたいから思いとどまったと打ち明けられ、仕事なんかやめたっていいんだ、生きていれば案外どうにでもなるもんだよと諭す。このシーンがホントに泣けるように仕立てられててよかった。原作では主人公・隆の心情に感情移入して泣いていたのだけれど、映画版だと両親の深い愛情にぐっと惹きこまれて泣いてしまった。

 

そして主人公・隆は、泣かない。ギリギリで、泣かない。その演技も本当に良かった。お互いに水際で必死でこらえてる様がいい。泣く場面をわきまえている。そこもすごく計算されているなと感じた。隆が泣く場面はベッドで一人寂しく、五十嵐さんに罵声を浴びせられて、上司から罵声を浴びせられて…という感じ。あとはあまり思い出せないのだけれど、主人公の泣きに頼らない構成だったのはスゴイ。効果的な涙の使い方をした映画だと思う。

 

ヤマモトの設定改変がもたらした変化は思っていたよりも大きい

ヤマモトの設定は小説版からとても大きく変化している。小説版ではカウンセラーだったのだけれども、映画版の場合はバヌアツの小学校の先生に変わっている。この変化、実は重大に立ち位置が変わっているように思うし、作風にも大きく影響していると思っている。

 

映画版を見て小説版と比較してみると、小説版のヤマモトは実はかなり湿っぽい性格をしている。双子の純を救えなかった苦しみからカウンセラーとなることを決め、その途中で出会った青山に対して代償的に行動しているように見えてしまう。最終的にも純を救えなかった苦しみは持ち続けているけれども、それでも青山を助けられたことを励みにしてカウンセリングを続ける…というちょっと苦みのある性格に描写されている。

 

しかし映画版はカウンセラーではない。海外で働く小学校の先生でしかない。純を救えなかったという後悔よりも、純が死んでしまった悲しみを持っているだけ、という風に見て取れた。自分が助けられたはずなのに、とは思っていないように見える。だからヤマモトの中にある動機が変わっているように思う。

 

映画版のヤマモトは駅でたまたま見かけた青山に、死んだ純のような危うさを見つけ、ただ放っておけなかっただけという感じ。小説版はもう純のような犠牲者を出さないために生きているという設定があるから、どこか出会いは必然のように思えるが、映画版は本当に偶然だったように見える。映画版のヤマモトは積極的に他者を救おうという動機でいたわけではないように思える。

 

その証拠に劇中でヤマモトが泣いたシーンはおそらく純の葬式のシーンのみ。屋上で青山を助けるときもヤマモトは泣かないのだ。これは少し驚いた。小説版では悲しげに自分の本音ともいえる部分を晒して、ヤマモトは泣いて青山を引き留めるのに。だから劇場版のヤマモトは小説版とはまったく違うと感じた。

 

映画版ヤマモトは笑顔でいることが原点になっている。一枚の写真から始まった、つらいときでも希望が見えない時でも笑えるということ。そういった快活さが原点にある。それは他者を積極的に自分の手で救おうとする犠牲的な感じではなく、こっちに来ればみんな笑顔で暮らせるよと手を引いてくれるような優しさがある。あまり湿っぽくない感じが青空とアロハシャツに合っていて素晴らしい。

 

ヤマモトの劇中の行動は本当にたまたまで、そのうえで本人も楽しみつつ青山が友達になって、本当に放っておけなかっただけと思う。けれどそうした気持ちがいつしか純に対してできなかったことができた、ということに自然となったんだと思う。初めから純と重ね合わせて代償的に救ったわけではないという点が観ている人に爽快感を与えていて、設定の変更は大成功だったと思う。

 

ラストシーンのバヌアツ共和国の演出と深いメッセージ

小説から大きく変わった点としてはやはりバヌアツ共和国が出てくることだろう。ヤマモトは海外のボランティアとして純が活きていた頃もバヌアツに行っていた。このバヌアツの風景は海がきれいに見えて、空も青くて東京の風景とはガラッと違うという点が非常に映えている。

 

小説版では青山が結局なんとかヤマモトの居場所を突き止めて彼のもとに押しかけるという筋書きだが、映画版はちょっと違っていてヤマモトが誘っているのだ。こっちにこいよと。これもまた新鮮な驚きだ。小説版では後ろめたさがあるから青山を遠ざけようとしたイメージがあるのだが、映画版ではそんなことはなく本当の親友として扱っているフシがあるのが素敵だ。そしてそれが結局、純と果たせなかった約束を果たしていることになる、自然と重なっている…という設定になっているのは…もうスゴイなあというしかない。

 

そして最後のシーン。仕事を辞める際に使った、タイトルにもなっている「ちょっと仕事やめてくる」に引っ掛けてヤマモトが「じゃあ、ちょっと仕事、はじめますか!」と爽やかに笑うシーン。あー…監督すごいなあと。このためにバヌアツでしたかと。完全においしいとこ持っていきましたねと。小説版へのアンサーみたいになっていてホントにいいなあ…という感じ。

 

小説版では青山はヤマモトに恩を返しきれず、そしてお礼すら言えなかったけれども、映画版では一緒に働くパートナーとして新しい一歩を共に踏み出すという点が強調されている。小説版でちょっと足りなかったヤマモトとの最後のシーンに飢えていた原作ファンにとっては非常に満足のいく補完を見せられた。

 

そしてバヌアツの広い浜辺を子供たちと笑顔で走っていくシーンで映画は終わるのだけれど、それこそがメッセージだと思う。最終的に青山は日本で就職なんてしなかったのだ。海外に出てボランティアでも、それでもいっしょにヤマモトと仕事をするという選択を選んだのだ。広い青空を眺めながら自分に何ができるのかを探すことに決めたのだ。

 

映画版とまた比較になるが、そう考えると小説版はある意味コンパクトにまとまっているように見える。すべては日本国内で閉じられているし、両親との関わりも電話一本で済んでいるし、ラスト部分も少し物足りないように見えてしまう。だがそれは映画版が見せた最後の広がりのせいだ。一気に場面を海外に移して広い空を移すことで選択肢はもっといっぱいあるよと見せつけている…いい演出だ。

 

映画の始まりでも「希望というのは無くなるんじゃない、見えなくなってしまうだけなんだ」と言っている。「見えなくなったら探せばいいし、探せなくなってしまえば作ってしまえばいい」なんて言っている。その実例をラストのバヌアツでの浜辺として映し出している。スケールを大きくとって、ヤマモトと青山の未来がより希望に満ちた、たくさんの選択肢に溢れているというポジティブな展望を観客に抱かせている。ホント素晴らしいな…という感想しかでてこない…。

 

不満点

ないわけではないですけれども、あまり大きくもありません。

一番は上司が成敗されないというところでしょう。

 

小説版では青山は堂々と啖呵を切って上司を言い負かすのでスッキリするのだけれど映画版の場合はソフトに穏便に済ませてしまう。青山はすがすがしい笑顔で「これからは青空の見て生きていきます」みたいなことを言ってて「コイツ気が狂ったか…それとも怪しい宗教にハマったのでは…」感がスゴくて…。

 

まあいいんですが、上司は切れっぱなし。めちゃくちゃ怒鳴り散らして物投げたりゴミ箱蹴っ飛ばしたり。青山にいくらか当たっちゃって、青山はよろけるので強そうなイメージがわきませんでした。ぜひとも動じない青山君でいてほしかったのですが…。ちなみにゴミ箱がおもいっきり吹っ飛んでてちょっと笑ってしまった。けっこう飛ぶもんなんだなあ、ゴミ箱。すごい。

 

ともかく上司が成敗されないので結局職場の人もあんまりスッキリしない感じ。いつまでもグチグチ言ってブチ切れてて、最後物に当たって打ち所が悪く悶絶するだけという…。あんまりスッキリしませんでしたね。まあそういう映画じゃないから仕方ない。結局、青山はそういった部長のしがらみや五十嵐さんへの気持ちとかかつての怒りから完全に開放されてバヌアツで元気にのびのび生きていると思われるので、まあ鑑賞後の後味としてはあんまり気にならない感じです。

 

まあ上司を思いっきり成敗するシーンの映画が観たいのならWantedがおすすめです。こちらもオフィスでの上司成敗がメインではないのだけれども。パワハラ上司はこれくらい思いっきり復讐してもいいと思うんだけどなあ。

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後はファイトクラブもおすすめです。こちらはあんまり上司成敗というよりは自分が手の付けられないほど自由な人生を送る方法という感じだろうか。ともかく「ちょっとい今から仕事やめてくる」で上司に殺意を覚えた人はぜひ違う映画を見てスカッとしましょう。

 

おわりに

映画版「ちょっと今から仕事やめてくる」は小説を読んでる人にも十分満足以上のものを与えてくれた作品だと思う。むしろ小説版との比較をしてみて気づかされることがたくさんあって本当に面白かった。おかげさまで感想がとんでもないほどながーくなってしまった。

 

ここまででだいたい5400文字である読んでくださった方、お疲れさまでした。お読みいただきありがとうございます。だいたい映画を見た時間と感想をまとめて書く時間が同じレベルでした。それだけ書きたいことがたくさん生まれてくる作品で本当に素晴らしかった。

 

原作ありきの邦画というのはあまり期待できないなと思っていたけれど、予想以上の作品に出会えて本当に幸運だった!劇場でも数多くの人が涙していたし、自分も思った以上に泣いてしまい帰るころには泣きすぎて頭痛くてふらふらだった。だけれども見終わった後のすがすがしさは本当に素晴らしかった。これからつらいときには見返したいなと思えた作品だ。ここまで設定を変えたうえで、きちんとその意図に納得できた作品は初めてかもしれない。本当に素晴らしかった。

 

小説には小説のリズムがあって、文体があって、行間があって、自分の自由に想像できるところがいいと思うのだけれども映画もそれに負けないぐらい演技があって、声のトーンがあって、表情があって、表情にさしかかる照明と演出があって。一つ一つの台詞に感情をいっぱい詰め込んだ演技を最大限に活かしていた。映画という媒体を使ってきちんとメッセージを観客に最大限に投げかけられていたと思う。本当にいい作品だった。また機会があれば見に行きたいと思う。

 

 

ちょっと今から仕事やめてくる (MFコミックス フラッパーシリーズ)