かやのみ日記帳

日々感じたことをつれづれと書いています。

ブラックミラー 国歌 感想。国とは、国民とはいったいなんだろうか。

 

テレビの前で、みんなが。

シーズン1の1話。ブラックミラーの記念すべき最初の回は、やっぱり胸糞が悪い。
どこまでも後味が悪く、救いようのない。Netflixだからできた作品だなと思う。

ただ、これはフィクションである。きっと、これからも。

 

以下からネタバレになる。

イギリス国家首相に王妃誘拐の一報が飛び込む。
寝間着のまま犯人の動画を見ると豚と性交した動画をテレビ放送しろという指示が。
その動画はすでにYoutubeで拡散されてしまった後だった…。

という衝撃的なスタートを切る。

f:id:kayanomi:20181026213720p:plain

素晴らしい名演である。緊張、困惑、嫌悪感が入り混じった真剣な表情。

 

政府は当然情報統制を行いこれ以上拡散しないように試みる。
自国の報道機関は守ろうとするが、他の世界の放送局が報道してしまう。
NHKも挙げられていたが、実際にこのような事件があったら報道するのだろうか。
ともあれこうして内容はエスカレート。人質追悼動画の準備すらされてしまう。

 

最初からそれぞれみな、無責任極まりないということを示している。
Youtubeではたぶん、だれかがこの動画を無差別に複製し続ける。
Twitterでは話をよくわからないまま拡散し、不確かなまま伝達される。
国家でさえ、よその国にはお構いなしな報道をする。

f:id:kayanomi:20181026213849p:plain

報道機関としてよそには負けてられないからとトップの人間も指示する。
でも内心でこれが正しいのかと思いつつ、やめられない。
赤信号、だれかが渡ったら自分も渡らないと損をする。それは正しいのだろうか。

f:id:kayanomi:20181026214054p:plain

そういえば日本の政治家の信頼もYoutubeによって揺らいだことがあった。
sengoku38による尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件 - Wikipedia

我々も似たようなことは2010年にもう経験しているのだ。
Wikipediaを見るとブラックミラーを笑えない世論調査の結果が書かれていたりする。

独走と祭り上げ

徐々に政府内、そして報道機関内でも不穏な動きが始まる。
報道機関内では政府の人間からリークしようとヌード写真を送りつける。
政府では首相に恥を欠かせられないと合成映像の準備。
ここらへんは人間の独走を示している。言われてもいないことをやる。
それは組織が喜ぶと思っての過激な行動だ。
話が進むに連れて、だんだんとエスカレートしていく。

 

そして首相を取り囲む状況は悪化していく。
妻にも知れ渡り、王室からも”個人的に強く”救出に尽力するように言われる。
首相だって一人の人間、市民である。
特定の個人を祭り上げ、誰も彼の心情に対するケアがないのだ。
国家がまるで一人を供物に捧げるように行動していく。

 

政府も黙ってみているわけではない。
犯人の位置らしき情報を掴み、部隊を投入。
ビンラディン殺害の実況中継を思い起こさせる。

ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害 - Wikipedia

 

世論は首相に同情的であり、テロに屈するべきではないという。
だが、犯人は政府が代役で逃れようとしたとして人質の指を報道機関に送りつける。
人質が苦しむ映像付きで即座に放送されると一気に世論は真逆に傾く。

f:id:kayanomi:20181026214637p:plain

代役を立てようとした人間も首相のためを思ってやった。
だが、それは最悪の事態を招いてしまった。それは組織の悲劇だろうと思う。

 

首相の代わりはいるけどプリンセスは一人だ、なんてコメントは切ない。
首相だって個人だし、プリンセスも結局は一人だ。どちらも変わらない。
世論は大きく変化し、首相を犠牲にしてしまえという論調になった。
それが国の意思なんだろうか。

 

犯人がいると思われる現場は空振り。
ついでに政府からリークした情報から突入した記者が足を撃たれる自体に。
今では誰でもスマートフォン一つで衝撃映像を撮れるようになった。
が、ハイリスク・ハイリターンである。最悪命を落とす。
ブラックミラー的には怪我くらいで済んだのはかなり優しい結果だ。

 

共感のない世界

さて、結局犯人の要求を呑むしかなくなった首相。
でも失敗した政府の役人たちが首相を追い詰めるのは本当に最悪だ。
誰も彼もが自分じゃないから、国を守るためだからと首相を追い詰める。
それは恐怖だ。だれもが首相になりうる。首相はだれでもよいからだ。
犯人にとってもそうだ。犯人も首相でなくていい。
首相という役割の個人が犯人に、組織の仲間に、国民に追い詰められる。

 

誰もが見るな、録画するなといわれても、誰も守らない。
それはあまりにも共感がない世の中だろう。

 

www.ted.com

誰もが興味があるからとクリックすることで無秩序に拡散される。
それをもとに広告会社が儲かり、釣りタイトルが増える。
そうして晒された屈辱には高値がつくのだ。だれもがその屈辱を見たいから。

 

最後の廊下。最小の人数で首相を死地に追いやる。
彼らは首相を守れなかった人間たちだ。
そしてカメラの前の人々は笑みをもとに見守る。
誰もが自分ではない役割の人間を、悲痛な表情の人間を見て笑う。
残酷な世界だ。そして誰もが失望する。
自分の国の首相がこんな恥さらしを。でもそれは国民の敗北でもある。
国の敗北そのものだろう。

 

犯人は…すでに自殺している。芸術家だったらしい。
自分の指を切ってまで犯罪による表現をやりとげた。結果すら見なかった。
もしかすると世界に絶望していたのかもしれない。

 

人質は首相に指定された放送の期限よりも前に開放された。
誰もがそれを見て、だれも王妃が開放されたなんて気づかないはずだから。
それを知った人間の報告がまあひどい。笑顔でおどけている。

f:id:kayanomi:20181026214810p:plain

ゲスいよなあと思う。犯人の達成されたことは完全に闇に葬られる。
国のために。首相のために。
でも本当にそれらは国、そして首相のためになっていたのか。
支持率は一年後3%回復した。本当に喜ばしいことなのだろうか。
首相の壊れてしまった家庭、心はだれが癒せるんだろうか。

 

おわりに

なぜ国はテロには絶対屈しないと再三にわたって言うのだろうか?
答えはこういうことだ。テロリズムが増長してしまうし、国の信頼を失うからだ。
何があっても小さな要求でも国際的に悪しき前例は作ってはならない。
それが守られる限り、この物語はフィクションであり続ける。


が、ちらほらと現実になってしまっていることもあるし、繰り返される悲劇もある。
ブラックミラーはそんな現実を少しだけ見せているように思う。