Steamのセールで安かったので、ついプレイしてしまった。252円と非常にお安い。
Her Storyは推理ゲームだ。
警察の事情聴取のビデオをもとに、何が起きたのかをプレイヤーが考える。
警察側の情報はない。ただビデオに写っている彼女の記録が全てだ。
システムとして面白いのが、ビデオは検索しないと出てこないこと。
例えば最初のキーワードは「殺人」だ。このワードでヒットするビデオは3件。
それぞれのビデオにはキーワードが散りばめられている。
例えば被害者らしき「名前」。
彼女は20秒足らずのビデオの中でこんなことを話す。
「サイモンの殺人となんの関係が?」
こうして被害者らしき人物の名前が浮かぶ。そして、更に検索してみる。
サイモンについて彼女が言及しているビデオは52件もある。
だが…このゲームでアクセスできるのは先頭5件だけなのだ!
しかも、日付が昔のものしかでてこない。
より新しい情報にたどり着くには、絞り込みが必要なのだ。
例えば「サイモン 殺人」とか。この場合は1件のみに絞られる。
要は適切なキーワードがない限り、真実にはたどり着けない。
ちなみに、「真実」はゼロ件だ。にやりとしちゃう。
面白いのは、警察の供述で ”彼女が口頭で話したワード" でしか見つからないのだ。
なので会話の中で「真実」なんて口走ったりしなかったということだ。
このゲームで真実を探し出すためには、彼女を理解しなければならない。
もっと言えば…”口癖”だ。よく使うボキャブラリーでもいい。理解が進むとこんなことを言ってるな、こういう文化的な背景があるとわかってくる。
ちょっとした探偵気分になれて面白い。よく出来たゲームになっている。
ビデオアーカイブだからこそ、何度も見直し、文字を見て検索に繋げられる。
たぶんリアルタイムだったらキーワードを見落としていただろう。
なにより5件だけしか見れないというのも、本当に面白い。
ここからはゲーム制作者視点で考えたいのだけど…真実に近いワードはあえてヒットする件数を増やすように作られている。要はなんの関係もないような話題に混ぜ込んで、5件以上ヒットさせて後半部分に隠している。
だが、近いキーワード同士を組み合わせればやはりたどり着ける。
だんだんわかってくるのだ。なにが根本的な問題だったのか。きっかけはなんだったのか。
そもそも彼女についての基本情報を洗い出していくことも大事だ。こうした地道なプロファイリングが後半で非常に役に立つ。推理ものはあまりプレイしたことがないのだが、なるほど無駄じゃないんだなと理解できた。というかかなり重要である。
このゲームの基本システムで思い出すのは、やはり serial experiments lain。
lainも動画、音声記録をプレイヤーが再生し「このゲームはなにか」を理解するためのシステムになっている。
Her Storyとの違いはなにか、つい考えたくなった。
一番の違いはやはり「思想」。Her Storyは言ってしまえば「事件について」の調査でしかない。彼女がいったい何を知っているのか、何をしたのか。ある意味で1点に収束するような物語のシステムになっている。解き明かすための目的が明確なのだ。
だが、lainはもっと恐ろしい。彼女の思考を覗き、トレースし、なぜを考え続けさせられるから。Her Storyは彼女への興味はたしかに生まれる。だが、それは事件がありその事件の関係者だからに過ぎない。そして、彼女自身も別に我々になにかを示したいわけじゃない。閉じているのだ。
lainは違っていて、思想を広めるために生まれている。なんというか…小説で特徴的な人物について楽しむのと、強力な宗教的思考法、思想を学んでしまうのとは違う感じだ。
Her Storyには謎があり、キャラクターには魅力がある。他とは違う人間としての行動、思考が存在することはわかる。だが、lainにはもっと恐ろしい、人の思考に疑問符を投げかけるために存在している。そこが大きな違いだと思う。
ともあれこの手のシステムの面白さはいい。楽しかった。
推理ゲームとしては満点の出来だろう。非常に面白い。
が、なにかしらのメタ的な要素や思想が含まれているわけじゃない。
そこに期待する意味はない。
まあ推理小説じみたゲームにそんなものをいれてもしょうがない。
なのでHer Storyは非常に正しい。いいゲームだったと思う。