かやのみ日記帳

日々感じたことをつれづれと書いています。

「ご冗談でしょう、ファインマンさん」は強烈だ。どこか「坊っちゃん」にも似てる気がする。教師だからかな?

 

逸話に事欠かない物理学者、ファインマン

大学時代に「ご冗談でしょう、ファインマンさん」が図書館にあったので読んでみた。本人が直々につけたこのタイトルは非常にユニークだ。本の中身に対しても期待がそそられるし、ファインマンさんのセンスも光っているように思う。

著者は物理学者のリチャード・P・ファインマンノーベル物理学賞の受賞者でまあ逸話に事欠かない。なんとWikipediaにわざわざ

ご冗談でしょう、ファインマンさん』などユーモラスな逸話集も好評を博している。生涯を通し、抜群の人気を誇っていた。

と書かれるぐらいだ。

Wikipediaの逸話の文章量を適当にワードカウントに放り込んでみるとなんと5580文字。正直自分が普段書いている記事よりも2000文字以上長い。正直「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の素晴らしい要約(?)が見たかったらWikipediaに載っているわけだ。Wikipediaにここまで情熱的にまとめ上げた人がいるというだけでも、ファインマンの人気具合がわかる気がする。

 

夏目漱石坊っちゃん」との類似性

自分が最も好きな本の中の一つは「坊っちゃん」だ。ひたすらに正直で誤魔化しができない、けれど口下手で頑固で融通の利かない教師の話と「ファインマンさん」はどこか似ている気がする。というよりもお互い教師という職業で一致しているから当然なのだろうか。

ファインマンの逸話から一つ引用してみると

  • 父親は「身分」なんぞというものに決して頭を下げないという考え方があった。このため、法王だろうが皆と同じ人間であり「違うところは着ているものだけさ」ファインマンに言い聞かせていた。また、父親はセールスマンではあったが、人間は嘘をつくよりも正直でいた方が結局は成功するという信念があり、これらの考え方はファインマンが受け継ぐようになる。

このように、まず相手の立場などを気にしない、いつも正直でいることという信念は「坊っちゃん」も同じだ。どちらも読み手にすがすがしい気持ちをわけてくれる。

  • 何につけても自分が正しいと思ったことは実証しなくては気が済まない性格だった。あるとき大学のフラタニティと、小便は重力によって体から自然に出てゆくのかどうかという議論で喧々囂々となり、ファインマンが逆立ちして小便できるところを見せ、そうでないことを実証した。

また友人などから”できっこない”とか挑戦されるとすぐに受けて立ってしまうのも同様。坊っちゃんの場合もちょうどWikipediaにまとまっていたので引用してみるとこんな感じ。

小学校の時分、同級生の冗談による挑発に乗って学校の二階から飛び降り、一週間ほど腰を抜かす。ナイフで指を切って見ろと注文され、右手親指の甲を切る(第一章)

坊っちゃんは読む側に正直でいること、誠実でいることとはどんなことかを教えてくれる。そして後悔しない自分の信念を貫いた生き様がどれだけスカッとしているかも。 

 

ファインマンさんの信念

ファインマンさんの場合は知的好奇心を実験によって確かめようとするのが特徴だ。そこに本人の悪戯心がミックスされて他の人には到底できないことをやってのける。なかなか悪辣なこともやっていて、本人の「身分」なんぞ気にしない精神が表れている。

また内容よりもその機密性にばかり気を使う上司が気に入らず、ある日重要機密書類の入ったキャビネットを趣味の金庫開けの技術で破ってみせた。

この技術というのは非常に簡単で、実はキャビネットに鍵がついていることに安心して元の暗証番号から変えてない人が非常に多かったのを逆手に取ったのだとか。暗証番号を忘れちゃったと製造元に電話すればデフォルトの暗証番号は手に入る。

こんな悪戯心もきっとファインマンさんが伝えたい信念があるからだと思う。

不誠実な態度、特に科学者自身が科学に対して不誠実な態度をとることにはとても厳しい態度を示した。

それは科学に対して常に誠実であろうとすることにつきるんだろう。誰よりも科学を愛していたのだ。そして科学への愛を教えてくれた父への尊敬も、自らが受けた教育の素晴らしさを次代に伝える努力をした。

 

おわりに

「ご冗談でしょう、ファインマンさん」はファインマンさんの武勇伝ばかりではないことが本の価値をより高めている。時に失敗してしまったことも含まれていたり反省も少し書いてある。だが一番すごいところは、読んでる人がファインマンさんの熱い信念を自然と感じ取れるようになっているところだ。読んでいて心地がいい。

その計算をベーテに披露するも「それが何の役に立つんだ?」と訝られ「だけど面白いだろう?」と答えるとベーテも得心した様子だったという、結果としてその時の洞察が基になって、後々ノーベル賞を受賞する布石になる。

 ただあるがまま、自然に、そして誠実に学問に向かい合う姿勢こそがファインマンさんの本質なんだと思う。ユーモアがたくさん入って読みやすいけれど、その信念だけは読み違えてはならない。