ブルーピリオドを全巻買って一気読みした。電子書籍版、現在15巻まで。
息が止まるような場面がいくつもあって、退屈しなかった。
ブルーピリオドは美大受験についての話。
主人公が高2から絵を描き始め、美大を受け、
その後も芸術とはなにかに悩んでいくストーリー。
価値観のぶつかり合い
一番えぐいなーと思ったのは、ひたすらに価値観がぶつかりあうところ。
自分のモノの考え方、世界の見え方、価値観。それを絵として出力する必要がある。
ありきたりじゃ勝てない。受からない。周りにライバルがたくさんいて、先生からもいろいろ指導される。
「もっといい方法はないか」
「もっといい発想はできないか」
「もっとうまくならなきゃ」
芸術において、一番きついなーと思うのは筋力や技術だけじゃどうにもならないところ。一味違った見せ方、アイディアのまとめ方まで求められる。
あるテーマで出題されたものに対して、自分の反応を絵にまとめる。
そのときに、思いつきのアイディアをさらに深掘りし、テーマを形作る。
もちろんべらぼうに絵がひたすら上手い人もいれば、面白いテーマやわかりやすさがずば抜けている人たちがすぐとなりにいる。ライバルが多いし、浪人生とかもいるわけで、非常に過酷な環境だ。
日常で他人と価値観が相当ぶつかりあうことってないと思う。喧嘩でもしない限り。
自分の価値観が浅いとか、足りないとか言われることもない。
だれも興味を持ってないから。仕事さえできれば良い世界なのだから。
けど、芸術はそれじゃ駄目なのだ。おそらくね。
作品を通して価値観やテーマ、アイディアを見る人に向けて、作り出す必要がある。
それを高校生や大学生がやらされる。妥協なく。
言っても20歳未満の人たちだ。人生経験がそんなあるわけじゃないはずだ。
なんだけど、人生の価値観をひたすらに、毎日のように、比較され、評価され、削られていく。なんて過酷な環境なんだろうか。
人に歴史あり、価値観あり
面白いのは、大人たち、指導する人間たちに悪気は一切ないところ。
多少の打算とか、人としてどうなの的な言動はあるけれど。
教える側も芸術家なわけで、自分たちのやってきたこと、教えることには信念がある。
それらを生徒たちに「一人の芸術家」として、期待し、価値観をぶつける。
そこには積み重なった事情や、歴史があって、信念が形作られている。
反権威主義だとか、アーティストへの扱いの苦労だとか…
けれど、生徒側はそんなことは知ったこっちゃない。知る由もない。
生徒同士だって、なぜ絵を描き始めたのかすらわからないことだってある。
他人がなににこだわっているのか、価値観がやっぱりわからない。
そんな中で、若い頃から他人が自分の価値観について揺さぶってくるわけである。
意図してたり、意図してなかったり。作品をみて勝手に愕然としたり。
そりゃあ大学とか絵とかやめたくなりますわ。
普通の人はそんなに価値観ボロボロに耐えられるとは思えない。自分は無理だ。
そして、そんな中で価値観削られたりした中で生き残って卒業できた人たちが世の中のデザインとかクリエティブだとか、芸術家になっていくのだろう。それに対して納得できたのがよかった。